皆さんは、地政学という学問をご存じでしょうか?
個人単位では知っていたとしても、日本ではあまり普及していない学問とみなせます。
なぜなら、日本国内どの大学を探しても、地政学を専門的に扱う学部、学科が見当たらないからです。
よって、地政学に関する書籍を入手するのはできても、地政学の研究や学習を志して大学に進むのは難しいのが現状です。
本記事では、地政学という学問について、実例を交えながら解説していきます。
地政学とは
地政学とは、とある国や地域の地理的特徴が、政治や経済にどのような影響を及ぼすかを研究、考察する学問を指します。
世界には、山が多い国、海に囲まれた国、雨が多い国など様々な地理を持った国がありますが、こういった要素がその国の政治体系、経済をどう動かしていくのかを研究するのが「地政学」です。
地政学に登場する専門用語
地政学を語る上で、無くてはならない用語についていくつか解説します。
①海洋国家/大陸国家
「海がある」「山がある」というのは、世界中どんな国を語る上でも、外せない地理的要素です。
だからこそ海や山の存在は、地政学の研究でも重要な要素であると私は思っています。
第一に「海洋国家」とは、名前の通り海との関わりが強い国を指します。
日本やイギリスのように海に囲まれていたり、太平洋と大西洋に挟まれた本土を持っているアメリカのように、海との関わりが強くまた海の恩恵を受けて成長、発展してきた国は、「海洋国家」に分類されます。
Wikipediaより
海洋国家の対照となる「大陸国家」は、海との関わりが少ない大陸上に国家の重点が点在する国家を指します。
Wikipediaより
海洋国家、大陸国家の特徴については、こちらの記事で詳しく解説しています。
②半島国家
半島国家は、名前の通り半島上に位置する国家を指します。
半島国家は、①で紹介した海洋国家と大陸国家の緩衝地帯になることが歴史上多くありました。
現代では、冷戦時のヨーロッパ(ヨーロッパをユーラシア大陸の半島とみなした場合、アメリカーソ連の中間地帯として見ることができる)や、朝鮮半島、インドシナ半島などがあります。
大国同士の陣取り合戦によって、半島国家は戦場と化し、その戦争によって国家が分裂、分断することがあります。
朝鮮半島は、東西冷戦の代理戦争の舞台となりました。現在は朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国の二つに分かれています。
Wikipediaより
③緩衝地帯
大国と大国の間に挟まれた国家は、大国同士の対立や緊張が高まるのを防ぐ、「緩衝地帯」としての役割が期待されます。
大国の間に挟まれ、「緩衝地帯」としての役割を担うことになった国家は、「独立した国家」であり続けないと、最悪大国同士による武力衝突が発生する恐れがあるので、どちらの大国にも依存せずなおかつ対立を作らないというような、難しい舵取りを強いられます。
④ハートランド
イギリス出身の地理学者、ハルフォード・マッキンダーが提唱した地政学概念の一つです。
ハートランドとは、ユーラシア大陸中央に当たるシベリア一帯を指す言葉です。
シベリアは、ユーラシア大陸の中央にあり、南のインド洋、西の大西洋、東の太平洋から遠く離れています。
北極海がありますが、年中ほとんどの時期で凍っているため、北極海から侵略、軍事的脅威を受けることは考えられません。
このように、海洋国家集団やユーラシア大陸の海岸部にある国家から軍事的脅威を受けにくいため、マッキンダー博士は「ハートランドを制する者が世界島(ユーラシア大陸)を制し、世界島を制する者が世界を制する。」という理論を提唱していました。
つまり、ハートランドとは「オセロの角」のような立ち位置で、色が変わることのない(敵に侵略されにくい)区画なのです。
「Pivot Area」と書かれている地帯がハートランド。
Wikipediaより
⑤リムランド
これは、オランダ系アメリカ人であるニコラス・スパイクマンが提唱した理論です。
リムランドは、先ほど紹介したハートランドの周辺を囲っている地帯のことを指します。
つまり、シベリアの周辺、ヨーロッパー西アジアー東南アジアー中国ー日本が該当します。
含まれる地域を地図に描くと、三日月の形をしていることから、「三日月地帯」とも呼ばれます。
リムランドには興味深い共通点があります。
それは、過去発生した戦争のほとんどがこのエリアで起こっていることです。
直近100年間で見ても、第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争など多くの戦争が行われてきました。
戦争の要因は複雑で、一言では表せませんが、リムランドエリアは、人口が多く、またたくさんのエネルギー資源があり、そして国家戦略上抑えたら有利になる地点が点在するため、幾度となく戦争が勃発するのです。
Specteeより
⑥シーレーン
シーレーンは、海洋国家の経済、国家戦略を左右する重要な海上交通路のことです。
海洋国家にとって海上交通路は、貿易、自国防衛、国際通信をする上で重要な航路です。
シーレーンの重要性を理解するには、多くの資源を輸入に依存している日本を見ればいいでしょう。
日本にやってくる資源のほとんどは、貿易船で運搬されますが、もし貿易船の航路で紛争が起き、安全が確保できなければ、日本への資源輸入はストップ。生活に多くの影響を及ぼします。
海洋国家がシーレーンの安全を確保できなければ、国の存続が危うくなります。
逆に、このシーレーンを確保できれば、国内経済が安定し生活への悪影響もずっと抑えられます。
日本原子力文化財団より
⑦チョークポイント
多くのシーレーンが集中する地点を「チョークポイント」と言います。
チョークポイントは、航路の幅が狭まる海峡、運河が該当します。
あのスエズ運河やパナマ運河もチョークポイントです。
チョークポイントもシーレーン同様、海洋国家にとって安全でなければならない地帯です。
2021年4月に発生したスエズ運河座礁事故のように狭い運河や海峡の通行を塞ぐような事故が起きれば、世界の物流に影響が出ることになるので、チョークポイントやシーレーンは、海洋国家の「生命線」でもあるのです。