2024年3月16日に、北陸新幹線の金沢-敦賀間が開業して1週間が経過しましたが、今回の開業は沿線住民を含めて、大半の人が肯定的に考えたとは限りませんでした。
実際、同年3月15日以前は特急サンダーバードやしらさぎで、福井や金沢まで直通で移動できた関西地方からは、敦賀駅での新幹線乗り換えが必要となり、その上運賃・特急料金が値上がりするなど、概ね納得のいく新幹線開業になったとは言い切れません。
次に開業予定の新幹線は、北海道新幹線となる可能性がありますが、この北海道新幹線の札幌延伸にはどのようなメリットが考えられるのでしょうか。
北海道新幹線の状況
計画上では北海道新幹線は、青森県青森市から北海道旭川市までを結ぶことになっており、この内の新青森駅(青森県青森市)と新函館北斗駅(北海道北斗市)の間は2016年3月26日に開業済みです。
そして、「函館延伸後20年をめど」に、2035年ごろの開業を目指していた新函館北斗-札幌間は、札幌市が2030年の冬季オリンピック誘致を目指すために一時は5年前後の開業前倒しが発表されました。
しかし現在では、札幌市が五輪招致を取り下げ、トンネル工事に予想以上の期間を要することが判明し、2030年ごろの開業は現実的ではないと考えられています。
そして、札幌から先の区間はまだ基本計画段階で、工事はほぼ未着工状態です。
北海道新幹線札幌延伸による所要時間の短縮
鉄道計画データベースによれば、北海道新幹線の最高速度を時速260kmと想定した場合、主要駅間の所要時間は、新函館北斗-札幌間が約1時間13分、新青森-札幌間が約2時間18分、東京-札幌間が約5時間1分と、3区間のいずれも従来の鉄路と比較して、圧倒的な時間短縮が実現する見通しです。
北海道新幹線の札幌延伸で考えられるメリット
北海道新幹線の札幌延伸によって、本州の各地が享受するメリットは様々考えられます。
①首都圏と札幌間が近く
東京ー札幌間の所要時間が約5時間であると先ほど申し上げましたが、一般的に鉄路で5時間もかかる区間は、航空機にシェアを奪われがちです。
実際、東北・北海道新幹線と、距離や所要時間の面で境遇が似ている東海道・山陽新幹線では、航空機よりも新幹線のシェアが高いのは、のぞみ号で東京駅からの所要時間が3時間台で収まる岡山や広島が限度となっており、所要時間が5時間台に突入する九州へは、航空機での移動を選択する人が一気に増加します。
もちろんこれは、市内中心部に近い福岡空港の利便性が影響していることも考えられますが、それを除いても鉄路で5時間かかる地域は、航空機の方がより早く移動できる傾向にあります。
東京ー福岡間同様に約1,000kmの距離がある、東京-札幌間。
やはり新幹線はシェアを奪えないのか?と考えられますが、案外新幹線が健闘するかもしれません。
羽田空港と成田空港、そして新千歳空港が両都市部からは少々離れている関係で、東京都心-札幌市内間を航空機で移動する場合は、一般的に4時間ほどの所要時間がかかります。
しかし新幹線は、東京から一本で札幌へ5時間なので、少しばかり時間がかかっても新幹線での移動を選択する方が少なくないかもしれません。
その上、埼玉県や栃木県など北関東地方からは、おそらく新幹線経由の方がより早く札幌に到達できるでしょう。
そのため、北海道新幹線が1,000kmの牙城を崩して、札幌までのシェアを獲得するのも十分に考えられることなのです。
②道内移動も新幹線が圧勝?
新幹線が開業すれば、函館-札幌間は1時間台での移動が実現します。
特急でも高速バスでも3,4時間程度を要していた同区間で、ここまでの時間短縮が起きれば、地域経済にも交通機関の競合にも大きな変化が起こるでしょう。
間違いなく新幹線の運賃と特急料金は、高速バスや現在の特急列車より高くなるでしょうが、それ以上に1時間で移動できる価値は大きいと言えます。
このようなメリットがあるからこそ、北海道新幹線は函館-札幌間から先に開業させるべきだと私は思っていたのですが、残念ながら現在は同区間で難工事に直面しています。
札幌延伸で懸念されること
札幌延伸で懸念されることと言えば、沿線人口の少なさが挙げられます。
東京-福岡市内の移動に新幹線を利用する人は少数派ですが、にも関わらず毎日1,000kmを超えるのぞみ号が東京-博多間で運行されているのは、途中駅での需要が大きいと言う理由が挙げられます。
名古屋、京都、大阪、そして山陽新幹線の途中駅から福岡へは、おそらく航空機よりも新幹線の方が、より早く移動できます。
東北・北海道新幹線でも、東京-札幌間を直通する列車が一定数運行されるでしょうが、首都圏からの需要を取り込めないと採算が取れにくいかもしれません。
東北新幹線沿線にも、宇都宮市や郡山市、福島市、仙台市、盛岡市、青森市など、大都市は確かにありますが、東海道・山陽新幹線よりも沿線人口が少ないのは言うまでもありません。
のぞみ号のように、途中駅で期待できる「大きな箱」が少なく、また小さいのです。
もちろん、はやぶさ号がのぞみ号のような運行本数が設定されることは無いでしょうが、それだとしても首都圏からの需要を取り込めないと札幌延伸の採算は取れにくいと思います。
北海道新幹線は赤字か?
首都圏の需要を取り込めれば、札幌延伸後の北海道新幹線は黒字転換が可能かもしれません。
新幹線が、本州-北海道間のメインルートになれば、の話ですが。
ところで北海道新幹線は、開業前から赤字の想定がされており、今でも数百億円単位の赤字が計上されています。
もちろんこの状況は、札幌延伸後に改善するかもしれませんが、少なくとも終着地が新函館北斗である限り、黒字転換は難しいかもしれません。
最近、新幹線の終着地になった敦賀市にも指摘されていることですが、新幹線の終着地にしては人口が少なすぎるのです。しかも大きな乗り継ぎ需要がそれほど見込めません。
鉄道経営は、単体では黒字を出しにくい事業(少なくとも今の日本では)であるため、路線の存続を議論する際に、黒字か赤字かどうかで判断するのはあまり適切な方法ではありません。
しかし、赤字であることを理由に廃止を主張する世論があることも事実なので、赤字が目立たないほどの価値を見出せるかどうかが、北海道新幹線の今後を決めるきっかけになるでしょう。